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朝鮮学校などの子どもたちの〈教育への権利〉に関する 国際人権条約に関する資料
1、 条約と国内法の関係
(1) 日本が締結(批准)した条約と確立した国際慣習法は、そのまま国内法的効力を与えられ、日本の国内法の一部を構成する。
条約の締結には、憲法73条3項の規定で、国会の承認が必要。

(2) 日本では法律は、効力順位において国際法の下位に位置づけられているから、法律の解釈に当たって、上位に位置する国際法に抵触しないように、あるいは国際法に適合するように解釈することが、憲法の要請である。(東京高判1998.1.21判タ980号302。これは、日本政府の公式見解でもある。衆議院商工委員会議事録第31号)


2、 地方自治体の国際人権基準を積極的に実現・促進する責務
(1) 国際法の国内実施義務は第一義的に国家が負うが、地方自治体には人権抑圧・侵害をおこなわない消極的不作為義務以上の責務、すなわち国際人権基準を積極的に実現・促進する責務がある。

(2) 私立学校振興助成法と同法施行令―により、人権条約上国家が負う履行義務の一部を地方自治体が委託されて担っている。


3、子どもの教育権に関する判例など
(1)子どもの教育権に関する判例
「子どもは未来における可能性を持った存在であることを本質とするから、将来においてその人間性を十分に開花させるべく自ら学習し、事物を知り、これによって自らを成長させることが子どもの生来的権利であり、この子どもの学習する権利を保障するために教育を授けることは国民的課題である」(東京地方裁判所1970年7月17日判決・いわゆる教科書訴訟杉本判決。)

(2)子どもの権利条約28条1項
 28条1項にいう「教育」は、子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力を発達させ、人権、基本的自由および平和の維持ならびに親、自国の国民的価値および他の文明の国民的価値の尊重を育成し、相互の寛容の精神のもとで自由な社会に参加する子どもの能力を発達させ、かつ、他の文明、文化、宗教、性および自然環境の尊重を育成する過程として理解されなければならない。(『注釈・子どもの権利条約28条-教育についての権利』ミークベルハイド著/平野裕二訳 23p)
 *日本政府訳は、「児童の権利に関する条約」であるが、「子どもの権利に関する条約(子どもの権利条約)」(国際教育法研究会訳)を採用。国際条約などの政府訳には、問題が多く要注意。

(3)子どもの権利条約28条4項
 「教育についての権利」は、「それ自体が人権のひとつであり、かつ他の人権を実現する不可欠な手段であるという教育の二重の側面」が指摘される。(同上90〜91p)


4、 子どもたちの<教育への権利>に関する条約など
(1) 世界人権宣言第26条(1948年 国連総会で採択)

1、すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者に等しく開放されていなければならない。
2、教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種若しくは宗教的団体相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。

(2) 経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(社会権規約、日本1979年批准)

第2条
1 この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。
2 この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。

第13条
1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。
2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
(a) 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。
(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。
(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
(d) 基礎教育は、初等教育を受けなかった者又はその全課程を終了しなかった者のため、できる限り奨励され又は強化されること。
(e) すべての段階にわたる学校教育制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し及び教育職員の物質的条件を不断に改善すること。
3 この規約の締約国は、父母及び場合により法定保護者が、公の機関によって設置される学校以外の学校であって国にとって定められ又は承認される最低限度の教育上の基準に適合するものを児童のために選択する自由並びに自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束する。
4 この条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行われる教育が国よって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。


(3) 市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約、日本1979年批准)

第27条、
種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。


(4) 子どもの権利条約(日本1994年批准)

第2条 (差別の禁止)
1. 締約国は、その管轄内にある子ども一人一人に対して、子どもまたは親もしくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的もしくは社会的出身、財産、障害、出生またはその他の地位 にかかわらず、いかなる種類の差別もなしに、この条約に掲げる権利を尊重しかつ確保する。
2. 締約国は、子どもが、親、法定保護者または家族構成員の地位、活動、表明した意見または信条を根拠とするあらゆる形態の差別 または処罰からも保護されることを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。

第28条 (教育への権利)
1. 締約国は、子どもの教育への権利を認め、かつ、漸進的におよび平等な機会に基づいてこの権利を達成するために、とくに次のことをする。
a. 初等教育を義務的なものとし、かつすべての者に対して無償とすること。
b. 一般教育および職業教育を含む種々の形態の中等教育の発展を奨励し、すべての子どもが利用可能でありかつアクセスできるようにし、ならびに、無償教育の導入および必要な場合には財政的援助の提供などの適当な措置をとること。
c. 高等教育を、すべての適当な方法により、能力に基づいてすべての者がアクセスできるものとすること。
2. 締約国は、学校懲戒が子どもの人間の尊厳と一致する方法で、かつこの条約に従って行われることを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。
第29条 (教育の目的)
1. 締約国は、子どもの教育が次の目的で行われることに同意する。
a. 子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力を最大限可能なまで発達させること。
b. 人権および基本的自由の尊重ならびに国際連合憲章に定める諸原則の尊重を発展させること。
c. 子どもの親、子ども自身の文化的アイデンティティ、言語および価値の尊重、子どもが居住している国および子どもの出身国の国民的価値の尊重、ならびに自己の文明と異なる文明の尊重を発展させること。
d. すべての諸人民間、民族的、国民的および宗教的集団ならびに先住民間の理解、平和、寛容、性の平等および友好の精神の下で、子どもが自由な社会において責任ある生活を送れるようにすること。

第30条 (少数者・先住民の子どもの権利)
民族上、宗教上もしくは言語上の少数者、または先住民が存在する国においては、当該少数者または先住民に属する子どもは、自己の集団の他の構成員とともに、自己の文化を享受し、自己の宗教を信仰しかつ実践し、または自己の言語を使用する権利を否定されない。


(5) あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約、日本1995年批准)

この条約の締約国は、
国際連合憲章がすべての人間に固有の尊厳及び平等の原則に基礎を置いていること並びにすべての加盟国が、人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守を助長し及び奨励するという国際連合の目的の一を達成するために、国際連合と協力して共同及び個別の行動をとることを誓約したことを考慮し、
世界人権宣言が、すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳及び権利について平等であること並びにすべての人がいかなる差別をも、特に人種、皮膚の色又は国民的出身による差別を受けることなく同宣言に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明していることを考慮し、
すべての人間が法律の前に平等であり、いかなる差別に対しても、また、いかなる差別の扇動に対しても法律による平等の保護を受ける権利を有することを考慮し、
国際連合が植民地主義並びにこれに伴う隔離及び差別のあらゆる慣行(いかなる形態であるかいかなる場所に存在するかを問わない。)を非難してきたこと並びに1960年12月14日の植民地及びその人民に対する独立の付与に関する宣言(国際連合総会決議第1514号(第15回会期))がこれらを速やかにかつ無条件に終了させる必要性を確認し及び厳粛に宣明したことを考慮し、
1963年11月20日のあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言(国際連合総会決議第1904号(第18回会期))が、あらゆる形態及び表現による人種差別を全世界から速やかに撤廃し並びに人間の尊厳に対する理解及び尊重を確保する必要性を厳粛に確認していることを考慮し、
人種的相違に基づく優越性のいかなる理論も科学的に誤りであり、道徳的に非難されるべきであり及び社会的に不正かつ危険であること並びに理論上又は実際上、いかなる場所においても、人種差別を正当化することはできないことを確信し、人種、皮膚の色又は種族的出身を理由とする人間の差別が諸国間の友好的かつ平和的な関係に対する障害となること並びに諸国民の間の平和及び安全並びに同一の国家内に共存している人々の調和をも害するおそれがあることを再確認し、
人種に基づく障壁の存在がいかなる人間社会の理想にも反することを確信し、世界のいくつかの地域において人種差別が依然として存在していること及び人種的優越又は憎悪に基づく政府の政策(アパルトヘイト、隔離又は分離の政策等)がとられていることを危険な事態として受けとめ、あらゆる形態及び表現による人種差別を速やかに撤廃するために必要なすべての措置をとること並びに人種間の理解を促進し、
いかなる形態の人種隔離及び人種差別もない国際社会を建設するため、人種主義に基づく理論及び慣行を防止し並びにこれらと戦うことを決意し、1958年に国際労働機関が採択した雇用及び職業についての差別に関する条約及び1960年に国際連合教育科学文化機関が採択した教育における差別の防止に関する条約に留意し、
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言に具現された原則を実現すること及びこのための実際的な措置を最も早い時期にとることを確保することを希望して、
次のとおり協定した。

第1条
1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。
2 この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない。
3 この条約のいかなる規定も、国籍、市民権又は帰化に関する締約国の法規に何ら影響を及ぼすものと解してはならない。ただし、これらに関する法規は、いかなる特定の民族に対しても差別を設けていないことを条件とする。
4 人権及び基本的自由の平等な享有又は行使を確保するため、保護を必要としている特定の人種若しくは種族の集団又は個人の適切な進歩を確保することのみを目的として、必要に応じてとられる特別措置は、人種差別とみなさない。ただし、この特別措置は、その結果として、異なる人種の集団に対して別個の権利を維持することとなってはならず、また、その目的が達成された後は継続してはならない。

第2条の1項
(a)各締約国は、個人、個人の集団又は機関に対する人種差別のいかなる行為または慣行にも従事しないこと、並びに、国および地方のすべての公の当局および公の機関がこの義務に従って行動することを確保することを約束する。
(c)各締約国は、政府、国および地方の政策を再検討し、並びに、いかなる場所であれ人種差別を創出し又は永続化する効果を有する法律および規則を改正し、廃止しまたは無効にするため、効果的な措置をとる。

第5条
第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。


(6) 国民的又は民族的、宗教的、言語的マイノリティに属する人々の権利に関する宣言(マイノリティ権利宣言、日本1992年採択)

2. 国家は、 マイノリティに属する者が、 自己の特性を表現し、 自己の文化、 言語、 宗教、 伝統及び慣習を発展させることができる有利な条件を、その特定の実行が国内法に違反し、かつ、 国際基準に反する場合を除き、創設するための措置を取らなくてはならない。
3. 国家は、マイノリティに属する者が、可能なすべての場所において、母語を学習するための、 もしくは、母語で教育を受けるための適切な機会を持つよう、適当な措置を取るべきである。


5、日本政府の朝鮮学校差別の是正を求める国連の人権委員会などの「勧告」
(1)国連の人権に関する4委員会による日本政府に対する「勧告」
国連の自由権規約人権委員会が1回、社会権規約委員会が1回、子どもの権利委員会が3回、人種差別撤廃委員会が2回の、計7回、日本政府に対する「勧告」が出されている。初期の、大学受験資格における差別問題に対し、国連人権委員会の「勧告」が一定の成果を及ぼしている。最近は、朝鮮学校の子どもたちの教育を受ける権利の実質的な保障としての財政問題等の方へ、その「勧告」の内容が移っている。


(2)人種差別撤廃委員会の日本政府に対する「勧告」の抜粋
22.委員会は、2言語を話す相談員や7言語で書かれた入学手引など、マイノリティ集団の教育を促進すべく締約国によって払われてきた努力を、感謝とともに留意する。しかし、委員会は、教育制度の中で人種主義を克服するための具体的なプログラムの実施についての情報が欠けていることを遺憾に思う。のみならず、委員会は、子どもの教育に差別的な効果をもたらす以下のような行為に懸念を表明する。
(a)アイヌの子ども、もしくは他の民族集団の子どもが、自らの言語を用いた、または自らの言語についての、指導を受ける機会が十分にないこと、
(b)締約国においては、外国人の子どもには義務教育の原則が、本条約第5条、子どもの権利条約第28条、社会権規約第13条(2)―日本はこれらすべての締約国である―に適合する形で全面的に適用されていないという事実、
(c)学校の認可、同等の教育課程、上級学校への入学にまつわる障害、
(d)外国人のための学校や、締約国に居住する韓国・朝鮮や中国出身者の子孫のための学校が、公的扶助、助成金、税の免除にかかわって、差別的な取り扱いを受けていること、
(e)締約国において現在、公立・私立の高校、高等専門学校、高校に匹敵する教育課程を持つさまざまな教育機関を対象にした、高校教育無償化の法改正の提案がなされているところ、そこから朝鮮学校を排除すべきとの提案をしている何人かの政治家の態度(第2条、5条)。

委員会は、市民でない人びとへの差別に関する一般的勧告30(2004年)に照らし、締約国に対し、教育機会の提供に差別がないようにすること、そして締約国の領土内に居住する子どもが就学および義務教育達成にさいして障害に直面することのないようにするよう勧告する。この点にかかわって、委員会はさらに、締約国が、外国人のための多様な学校制度や、国の公立学校制度の外に設置された代替的な体制の選択に関する調査研究を行うよう勧告する。委員会は締約国に対し、マイノリティ集団が自らの言語を用いた、もしくは自らの言語に関する、指導を受ける充分な機会の提供を検討するよう奨励する。そして、教育における差別を禁止するユネスコ条約への加入を検討するよう促す。
第76会期 2010年2月15日〜3月12日

* 日本政府は、締結していない条約も多く、条約条項の保留も多く、上記の国連の人権委員会などの「勧告」が示すように、これらの国際条約の履行に消極的ないし条約違反がある。



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